沖縄から上蒲刈島へ。島民とともにつくりあげた古民家カフェを営む上田さんを訪ねて

今回取材したのは、沖縄から上蒲刈島へ移住し、古民家カフェを営む上田咲さん。
この店づくりには、上田さんが「ヒーローズ」と呼ぶ島民たちの手助けが大きく貢献していた。
美しい海と山の風景が広がる島を訪ね、その経緯や現在の暮らし心地について訪ねた。

古民家の改修を助けたのは、「合力」という伝統ある島文化

古民家改修を手助けした「ヒーローズ」。お店のオープン後も風通しのいいお付き合いは続いている。

広島県呉市の中心部から安芸灘とびしま海道を通り、瀬戸内にかかる橋々をわたって上蒲刈島へ、碧く澄みわたる海沿いを走り、「日本の渚百選」にも選ばれた恋ヶ浜を超えると「tete&tete」が見えてくる。呉市出身の上田咲さんが、当時住んでいた沖縄から移住し、2021年にオープンさせた古民家カフェだ。どこか懐かしい佇まいの店内で、移住のきっかけと島の暮らし心地について伺った。

「もともと呉市に住んでいたんですが、高校卒業を機に親元を離れ、沖縄で暮らし始めました。中学校の修学旅行で訪れたときの感動が忘れられなかった、というのがその理由です。海も、人も、食べ物も、すべてが私にぴったり合うものばかりだったんです」。

保育系の専門学校に入学した上田さんは、それから3年間にわたり沖縄で一人暮らしを経験。その後、広島市の保育園に勤務したり、再び沖縄へ移って天然酵母パン店で修行したりといった生活を送るうち、2018年に転機が訪れることとなった。

「西日本豪雨災害が起こり、上蒲刈島にある祖母の家が被災して土砂に埋もれてしまったんです。幼いころから遊びに行っていた思い出の場所だったので、もう解体するしかないと言われたときは、やるせない気持ちになりました。これをきっかけに、沖縄からこの家の離れに移住し、大崎下島の保育園で働きながら、家の手直しを始めるました」。

大工仕事の経験などない上田さんにとって、古民家の改修は簡単ではなかったが、ここに頼もしい助っ人たちが現れる。上田さんが「ヒーローズ」と呼ぶ、近隣に住む島民の方々だ。誰に頼まれるでもなく彼らは集まり上田さんを手助け。当初、数年はかかると思われた改修作業は、約1年後に完了することとなった。

「うれしかったというより、驚きました。島のみなさんが当たり前のことのように助けに来てくれるんです。しかも、大工作業も手慣れたもので、まるで本職の人のように家を甦らせていく。どうしてここまで親切にしてくれるの?そう聞くと、この島に古くからある『合力(こうろく)』という言葉を教えてくれました。いわば、互助の文化です。何か困ったことがあったら、みんなで力を合わせて助け合うという慣習が息づいているんだそうです」。

もともと祖母の家だったという建物は、築100年以上。幾つもの歳月を重ねたからこその深い味わいがある。

古民家の改修作業中の一コマ。「ヒーローズ」は、本職顔負けの巧みな技術で家を甦らせていったという。

移住者も心地よく暮らせる風通しのいい絶妙な距離感がある

「tete&tete」がオープンしたのは2021年9月のこと。「合力」の恩恵を受けてきれいになった古民家は、島民たちの憩いの場となった。

「沖縄の友人に『合力』のことを話すと、うちにも似た慣習があると教えてくれました。上蒲刈島も沖縄も同じ離島ならではの互助・自立の文化なんでしょうね。また、困ったときにサッと現れて、作業が終わるとサッと帰っていくところも、ヒーローズの素敵なところ。風通しのいい絶妙な距離感をキープしてくれるから、島の出身ではない私でも、気疲れすることなく暮らしやすいんです」。

そんな上田さんがお店を経営していく上で大切にしているのは、「島民の方々が笑顔になれること」。お店がオープンしてからも、「ヒーローズ」はちょくちょく訪れて気にかけてくれているという。

「島に住んでいるのは、『人と人のつながり』を大切にしている方ばかりです。だから私も見習って、積極的にコミュニケーションを取るようにしています。そういった触れあいの中から気付きや学びを得られ、島での暮らしをより心地いいものにしていけるんです。近ごろは島外から訪ねてくださるお客様も多いので、この店が拠点となって、そういう方々と島民との『つながり』も結んでいければいいなと思っています」。

互いに助け合う気風こそ「島」ならではの魅力

最後に、上田さんに島内のお気に入りスポットについて尋ねた。

「一番好きなのは、ここから車で5分ほどの近さにある『西泊観音』です。小高い丘の上にあり、瀬戸内の海を一望できる絶景スポットになっているんです。ちょっと疲れたときなど、ここに行ってぼんやりと海を眺めていると、すーっと心が癒されていきます。特に夕暮れ時の美しさは、言葉にならないほどですよ」。

上蒲刈島と沖縄には、美しい海とともに、幾つもの歳月をかけて人々が築き上げてきた「互助の文化」が息づいている。かけがえない人と人のつながりを大切にし、互いに助け合うという気風は、瀬戸内をはじめとする島々ならではの魅力といえるかもしれない。

高台にある西泊観音から眺める夕暮れの風景。太陽が水平線に融けていく姿がとても美しい。

上田 咲 さん
広島県呉市出身。高校卒業後に沖縄へ移住して専門学校へ。その後、一度広島へ戻るも、再び沖縄へ移って天然酵母パン店で修行。上蒲刈島に住み始めたのは、西日本豪雨災害が起こった翌年の2019年。大崎下島の保育園で勤務しながら祖母の家の改修を始め、「tete&tete」をオープンすることとなった。

自然豊かな上蒲刈島の真ん中にある古民家カフェ

地元食材を豊富に使用した上蒲刈島と沖縄の融合料理を味わえるワンプレートランチのほか、自家養蜂の蜂蜜をたっぷりトッピングしたパンケーキや季節のオリジナルジュースなども人気。また、広々とした店内では工芸作家やアーティストの作品の展示・販売も行なっている。古民家ならではのノスタルジックな雰囲気に包まれながら、ゆったりとした時間を過ごしてほしい。

スパムおにぎりなど、上蒲刈島と沖縄の融合料理が並ぶワンプレートランチ。

店内はほっと心が和む雰囲気。画家や工芸作家などによる作品の展示・販売も行なっている。


DATA tete&tete
住所/広島県呉市蒲刈町大浦1235
TEL/050-8882-0522
HP/https://www.tete-and-tete.com/
営業時間/11:00~16:00
定休日/水・木曜日

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