独立起業を志して、神山町へと移住し
「コト」を仕掛ける宿泊施設のオーナーに。

2024.07.01

大学時代のアルバイトをきっかけに飲食業に入った神先岳史さん。
「ゆくゆくは独立を」と移住したのは徳島市から車で約40分の神山町だ。
「先進的な田舎」とも呼ばれるこの町で、彼はどのように歩んだのか。

多様な可能性を秘めた徳島、最先端の田舎へ

2023年4月、徳島県中部の神山町が全国から注目を集めた。テクノロジーとデザイン、起業家精神を学ぶ「神山まるごと高等専門学校」が開校したのだ。かつては「消滅可能性都市」と言われた里山の小さな町は、官民の様々な取り組みにより移住者が増え、IT企業のサテライトオフィスや新規出店も増えている。2018年より宿泊施設「WEEK神山」を運営している神先岳史さんも、移住者の1人。「大学時代のアルバイトを皮切りにずっと飲食業に携わっており、将来は独立したいと考えていました」と話す。ジャンルを問わず磨いた料理の腕と、関西やベトナム、山形などの各地で鍛えたコミュニケーション力や対応力が彼の強み。次の行き先を探していたとき、生き方や働き方を紹介するサイト「日本仕事百貨」で神山塾の記事が目に止まった。
「私が神山塾の存在を知った2011年は、合併以来減り続けていた神山町の人口が11人増えた年。田舎なのに人口が増えているこの町には可能性があると感じ、すぐに応募しました」と振り返る。

プロジェクトに取り組み町へと溶け込んでいく

2018年から5年間、「一般社団法人 石積み学校」の 協力を得て、建物を支える石積みの修復に取り組んだ。 参加者はこの宿に泊まり、昔ながらの手作業の技術を学んだ

翌年、神先さんは神山町へと移住した。塾生として最初に取り組んだのは、自分1人で切り盛りできる屋台の開業。近隣から安心できる素材を調達し、イベント出店からスタートした。やがて、地元のおばあちゃんたちが営む食堂を週3日だけ借り、「カフェイレブン」を始める。
移住してから、神先さんは「カミヤマ イレブン プロジェクト」と題して、2年間で11のプロジェクトを実施する使命を自身に課した。名称は、2011年の神山町の人口増加数に由来する。「神山町はとても居心地が良く、住民の方も親切。それに甘えているとすぐに時間が経ってしまうから、2ヶ月に1つ、何かしら挑戦しようと考えたんです」。
屋台やカフェの運営で生産者とのつながりができ、顔なじみの町民も増えた。2015年に「WEEK神山」が開業してからは、料理人としてサポートし始めた。
そんなある日、「WEEK神山」の支配人が、ライフステージの変化により職を辞するという話が持ち上がる。後継者もおらず、このままでは休館…というとき、神先さんは運営を引き継ごうと決めた。「休館したら再開までのハードルが高くなることは必至。それに休館ってネガティブなイメージがあるでしょう? 神山町からそんな話が出るのは嫌だったので」と話す。「WEEK神山」には50人の株主がおり、大部分が町民。ほとんどが神先さんの顔見知りで、お世話になった方も多い。その恩に報いたいと考えたのだ。

ゆっくりと滞在して神山の多様な魅力を体感

2018年に引き継いだ「WEEK神山」の部屋数は8室。全ての部屋がリバービューで、ワーケーションに最適なワークルーム、家族連れやグループ向けのグループルーム(定員6名)など、コンセプトの異なる部屋タイプから選べるのも魅力。「WEEKという名前には、できれば週単位でゆっくり過ごしてほしいとの想いを込めています」と神先さん。もともと宿泊料金は手頃な設定になっているのに加えて、同室に3泊以上宿泊すると割引するシステムを採用している。基本プランは朝食付き、オプションで夕食も付けられ、地元食材をふんだんに使う神先さんの料理は宿の名物となっている。
神山町では、川遊びや昆虫採集、トレッキングなど、実に多様な過ごし方が可能。またアートインレジデンス(アーティストが滞在し、作品を残す取り組み)が根付いており、アート巡りも楽しめる。加えて「WEEK神山」では、イベントも目白押し。たとえばトークイベント、映画上映会、食を楽しむ会など内容もさまざま。「宿泊者以外も参加できるものが多く、いろいろな学びの場にもなっています」。
サテライトオフィスや高専の関係者など、著名な経営者や研究者がこの宿に逗留することもある。「そんな出会いがイベントのきっかけになることがあり、僕自身も楽しんでいます」と笑う神先さん。豊かな自然など「田舎」としての良さを残しつつ、世の中の最先端に触れることができる神山町。もともとの住民から移住者まで、プレーヤーの多さがこの町の魅力であり、可能性なのだ。

客室は全室、川側がガラス張りに。リバービューの開放感は、この宿の魅力の1つ。部屋タイプも多彩で、写真はダブルルーム
神先 岳史 さん
1986年、京都市生まれ。京都外国語大学を卒業後、飲食業に携わる。国内外で経験を積み、2012年春に神山町へと移住。起業してシェアカフェなどの運営を行い、2018年からWEEK神山の経営に携わる。移住者である妻との間に3人の子を授かり、現在は長男と一緒に四国一周自転車の旅をするべく、親子でトレーニング中。

景色と食事と発見と。長期滞在したくなる「先進的な田舎」の宿

築70年の古民家をリノベーションした母屋(フロント兼食堂)と、町産のヒノキやスギを使った全室リバービューの宿泊棟で構成。地元の農家さんから持ち込まれた、旬のオーガニック野菜が主役の食事メニューも好評(夕食は3日前までの事前予約制)。宿名「WEEK」には、ゆっくりと過ごしてほしいとの想いが込められている。

ギャラリーやイベント会場としても活用されている食堂は、古民家ならではの落ち着きがある味わい深い空間

DATA WEEK神山
住所/徳島県名西郡神山町下分知野57
TEL/088-677-0313
営業時間/10:00〜19:00
定休日/月・火曜日
HP/https://week-kamiyama.jp

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